一週間前の未明、一家の総長である敖潤が何者かの凶弾に倒れた。実際には一命を取り留めたのだが、病床で生命維持装置に繋がれて意識の回復の見込みはないとされている。総長としては事実上の死に等しい。この由々しき事態の中、表向きは組の威信と存続を懸けて、そして水面下では跡目就任を目論みに含みながら、同じ組織の中で動力となる四つの歯車がそれぞれの思惑を絡めて回り出す。
渾沌へ――。
仇討ち抗争の幕は切って落とされた。
「にしたって。何であんな派手な真似。まるで“俺がやりました”って言ってるようなもんだろ」
「厭だなあ。捲簾が骨董品だなんて。骨董好きな何方かの、恰好の餌食じゃないですか」
「ところで悟浄。貴方にお誂え向きな餌を今思いつきました」
「悟浄。折角ですから。僕を見て、抱いて、お帰りください」
「目障りな桜…」