『綺想曲』
同じ臭いがする - - - - -
ただ、俺が骨太なブルースなら、奴は繊細なジャズといった感じで、変拍子さながらに見えた。
少し不安定に感じるリズムは酒に合うだろうとも感じた。
奴とのセッションは上手くいっていた。
ちょいと辛いかと思う討伐から帰ってきた、そんなある日・・・・・
「どうした?」
読み出したばかりの本を片手に固く目を閉じて顳かみを押さえて、
「文字が逃げていってしまって・・・たまになるんですよ。理解した筈なんですけど、
スルスルと内容が逃げていってしまうんです」
『だから何も覚えていない』と笑った顔が少し歪んで見えた。
「疲れてんじゃねーの?今日は足場悪かったからな。やっぱ雨は慣れねぇよ」
戦闘における気象条件は勝敗を左右する大事な要素だが、雨の降らない天界では実戦で慣れていくしかない。
「すみませんでした」
要らん事まで自分の責任だと背負い込む癖。
「気にすんな。役目果たして全員無事帰還。結果オーライよ」
首を傾げて笑った姿が、調律の外れた打弦楽器のようで。
「ちょっと・・・こっちぃ来い」
少し強めに言えば、案の定身体を強張らせて躊躇う。
「いいから、天蓬」
一寸先の事も気にするなと促せば、ノロリとやってきて棒立ちで止まった。
取った指先が氷のように冷たい。
「悪かったな、邪魔して」
「・・・・・・・」
腕の中に引きずり込む。冷たい。
冷たい二の腕に、冷たい背中。凍えている総べて。
「苦手か?雨」
「はい・・・・部下を死なせたと話しましたよね?・・・それが・・・・・」
「雨だった?」
「はい・・・・・」
暗譜している旋律が身体中を駆け巡り、調律の狂った音は違う旋律に変わってしまって、雨の足場で変拍子の休符が突然に訪れた。
そんな感じだったんだろう。
もう一度強く抱きしめてダル・セーニョする。
「悪かったな、邪魔して」
「いいえ。ありがとうございます」
違う楽章に入った。
奴とのセッションは上手くいっている。
tattooの壱さんに様々な口説きを掛け頂戴しました。
低音で厳かに響き渡る捲簾の声が、今にも聞こえて来そうです。
泣きそうに心が温かくなるお話と幻想的な綴りに感嘆の吐息が漏れます。大好きです。
そして壱さん大好きですーーーv (おい)
本当に有難うございました!!