「捲簾、火を貸して下さい」
 
「ん」
 
「有難うございます」
 
 何気ない会話、いつも交わされる会話。
 
 
 
「ねぇ、捲簾。人類最大の発明は火の起こし方だと言われているのを知っていますか?」
 
「……いや」
 
「その方法を知るまでは火は自然発火でしか発生せず、其れは山火事等、生活を命を脅かす恐怖の対照でしか無かった。その火を操る術を知った人類はあらゆる面で急速な進化を遂げたのだそうです」
 
「へぇ」
 
「思うに一番大きく変わった事は精神面ではないかと。畏怖の念は信仰心を産み、権力闘争へと……ん……ぁあッ」
 
 ゆるゆると彷徨っていた捲簾の唇が乳首の上で牙を剥いた。
 気付かぬうちに追い上げられていた天蓬の身体はあっさりと快楽に流される。
 そんな天蓬を捲簾は戯れに噛み絞めたままで満足気に眇め。
 
「気持ち好い?」
 
 其の侭ジワリと咬み込めば痛みの奥に隠れた悦に追い縋るように天蓬の腕が捲簾の頭を掻き抱く。
 
「ンンンッ…ぁはっ……もっと……捲簾、もっとシテ下さい」
 
「ああ。お前の望むままに」
 
 火を持たなくなった天蓬と、誹らぬ振りで火を点し続ける捲簾。
 二人の間でアイシテルとはもう随分昔に交わされた言葉だった。
 
「愛している……」
 
「嬉しいです」
 
 捲簾は綺麗に笑った天蓬の口に唇を寄せて。
 
 
 
「ねぇ、捲簾。人類最大の発明は火の起こし方だと言われているのを知っていますか?」
 
 そう口火を切り、人類史を語った後に驚くほど清らかな笑みで捲簾を捕えたのは何時だったか。
 
「だから僕はもう火を持ちません。煙草が吸いたい時には貴方に借りる事に決めました」
 
 其れは純度が高過ぎた誓い。
 腕の中のパンドラの箱から最後の災いが飛び出さないように抱き締め続ける。



END.



命は掛替えのない物だと思っています。
お付き合い下さり有り難うございます。


2006.8.5 壱


[なぐりがき(現 tattoo/鋼の錬金術師)]さんの更新停止、合併に伴い、捨てて行く!というのを「いやああ!捨てないでぇ〜!」と縋り付いてお預かりしました、というのは私の心中だけで行われた事ですが、実際そんな気持ちで火をくださいは持って行かないの?とお尋ねしたところ、要る?とあっさり仰るので、要る要る!!と鼻息荒く即答してお預かりしました。何気にお強請りモードは全開でした。 この作品に出逢わなければ、今の拙宅の天蓬は、捲天は居ません。大好きな作品です。
生あって、縁あって、壱さんと、壱さんの作品に出逢えた事。心から壱さんに感謝します。本当に有難う。


2007.12.10 黎明 拝


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