蝶々結び











“俺以外、手に負えない”って、褒め言葉?
それとも、自慢話ですか?
その、にやにや笑っている顔に
真っ正面から張り手喰らわせて差し上げたいんですけど?

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軍の仕事は不定期で、いつ何が起こるか判らない。
常に待機中を余儀なくされるものですが。
休みというものは、あります。
当然です。
機械ではなく、ナマモノですから。
精神に緩急は、付けるべきものなのです。
じゃないと、参っちゃいますよ。身体がね。

と、いう訳で、西方軍に纏めて休暇にしました。
勿論、日程を個々に少しずつずらして、ですけど。
大事は東方軍へ丸投げ出来るように、手配済みです。
だから、何の心配もありません。
それと、竜王閣下の苦虫潰した様なお顔は、気にしません。
いつもと変わりありませんし。

さて、僕も休暇です。
この書類を提供すれば、明日から一週間は完全休暇です。
久しぶりなので、思いの外楽しみです。
さあ、何をしましょうか。


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部下達は、元帥が自分達の為にと感激して喜んでいるが。
この休暇は、絶対自分の為のみに計画実行したな、アイツ――天蓬は。

判るさ、アイツの考えそうな事は。
良く言や、自分に素直だからな…いいか、良く言えばだからだぞ?
論点のすり替えなんぞ、天蓬には朝飯前だしな。
ウチの青ナリ上司は、今頃胃薬飲んでんだろう。
この点だけは、同情するよ。

程なく、俺の所に忙しなくやってきて、地図と鍵と。
『荷物持ち、宜しくお願いします
 日程も行き先も全部、僕と同じにしてありますから。
 貴方の休暇はv』と、きたもんだ。
俺がNOと言わない自信は、どこから来てるんだか。
…甘やかし過ぎか?
だったら、躾直してやるか。多少、厳しくな。

渡された鍵を一嘗めして、俺は。
休暇の楽しい計画を算段し始めた。


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2人が到着したのは、海辺のコテージで。
周囲に何もない、海があるだけというものでした。
食料・日用品は、前日に完備されていて。
宿泊者は、身一つでくれば良い筈なのですが…。


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「おいっ! 何だ、この段ボール箱はっ。
 休暇に来たんじゃないのかっ。」
「休暇中に読む本です。大事に扱って下さい。」
「お前なあ。」
「荷物持ち宜しくと、お願いしてあったじゃないですか。」
「あれのどこがお願いだ。命令だろうが。」
「そうとも言えますが、貴方の取り方次第だと思います。」
「屁理屈言ってんじゃない。」
「言ってませんよ。それより、早く中に運んで下さい。
 これは、お願いですよ?」

言い捨てで、さっさとコテージの中に入って行く天蓬を見ながら。
俺は決心を固めた。
実行してやるってな。一時、折角の休暇だからと、別の時にでもと。
思いかけたが、やっぱり、その場でしないとな。
躾というものは。


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絶対、何かを企んでいますね、あの人。
それが、どんなものなのか、まだ読めないんですけど。
対抗策は想定しておかないと、いけませんね。

え? どうして判るかって、ですか?
この状況を見れば、一目瞭然ですよ。
寝室が別々なんですよ。捲簾が別々にしたんですよ。
『休暇なんだから、お互いゆっくり休もうぜ。』と。
自分用にした部屋に一人で入ってしまいました。
おかげで、僕は広いベッドの上に一人でポツン状態です。
これで、判らない訳ないじゃないですか。

それに、2日も経ちましたが。
指一本触ってこないんですよ、捲簾が僕に。
絶対におかしいです。
身体的欠陥が出たようにも、思えませんし…。
向こうの出方を見るつもりでしたが、そろそろ。
それも、飽きてきましたし…。
攻撃は最大の防御ですし…。
ある程度、読まれていると思いますが。
僕から、仕掛けてみましょうか、捲簾に。


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夜這いだったら、まだ可愛げのあるもんを。
俺が風呂に入っている時を堂々と狙ってくるのが、天蓬らしいと言うか。
案の定、痺れを切らしたって訳だよな。
予定通りの、3日目に。
こういうところは、可愛いか。
ただな、仁王立ちするなよ、風呂の入り口で。
『観念しなさい』って、満面の微笑みで。

それに、勝利宣言するには早いんじゃないか?
俺がいつ白旗を掲げた?
呆れて、溜息を付いたのを降参と取ったらしいが。
俺はちょいちょいと、天蓬に向かって手招きすると。
存外、素直に近付いてくるから。
隙を付くのは簡単極まりなかった。
その時、風呂場の中に、でっかい水音が響いたのは。

服を着たまま、浴槽に飛び込んできた天蓬は。
全身びしょ濡れで、髪からポタポタと水を垂らしていた。
自分の身に何が起きたのか、判らない表情で。

さあて、時間は有効に使わないとな。
水を吸って重くなっていね天蓬の白衣を肩から剥ぎ落とし。
腕を後ろに回させて、袖を使って後ろ手に縛り付けた。
藻掻き始めたのを押さえ付けて、キスをする。
深く合わせて、口腔をいいように貪っていると。
天蓬の息が熱くなってきた。
喉が物欲しそうに鳴る。天蓬の舌がゆっくりと絡んでくる。

充分、その気になったところで。
天蓬の肩を押し返して、身体を離した。

「け、ん…れ…ん?」

舌足らずに、眸で疑問を訴えてくる。

「放置と奉仕、どっちが良い?」
「えっ…。」

どうやら、頭も回っていないようだな。
湯に逆上せたか、完全に堕ちたか。
ぼんやりと、天蓬は俺を見返してくるだけだった。

濡れて、張り付いている髪を後ろに流してやりながら。
耳を弄る。
首を竦めて逃げようとするが、許さずに弄り続けた。

「ここで止めるか?」

首が横に振られる。

「たったら、俺をその気にさせるか?」

今度は、縦に首が頷いた。


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いつの間に、立場が逆転したのか。
仕掛けた筈だったのに、絡め取られている僕がいて…。
今一、思考が纏まりません。
バスルームに立ちこめる、湯気の所為で。
……それだけじゃ、ありませんけど。

捲簾は、浴槽の縁に腰掛けていて。
僕は、濡れた白衣に腕を後ろに拘束されていて。
捲簾に、髪を撫でられながら。
捲簾のものを口に含んで、嘗め続けています。

濡れて絡み付く音だけが、ずっと耳についてきます。
身体が、気持ちが…興奮して、目が開けられません。

「天蓬。」

不意に呼ばれて、顎を取られ。
捲簾のものが口からズルリと、出ていきました。
息苦しさからの解放で、忙しなく呼吸を繰り返していると。
身体が、反転されました。
下肢から、服が剥ぎ取られていくのが判りました。
濡れて、脱がし難いのか中途半端に。

「天蓬。」

もう一度、呼ばれて身体を固くしたところで。
捲簾のものが、ズッと挿ってきました。
さっきまで、僕の口の中にあったものが。
今度は、僕の後ろに…いつもより、ずっと奥深くに。

「………っ!」

何かを叫んだのを最後に、この時の僕の記憶は途切れました。



翌朝、時折、含みを持った笑いをする捲簾に。
聞く気には、到底なれませんでした。

―――残りの休暇を全部、ベッドの中で過ごしたとしても…
   天の邪鬼という悔しさが、僕の中にある限り



西国 遙か様
2007.5.28 拝受





西国の遙か様から、相互リンクのお礼にと頂戴しました!
こちらこそお礼申し上げなければならないのに、図々しくも何気なくリクエストさせて頂き、こんなにも早くこんなにも素晴らしい小説を賜りました。
捲簾が…!天蓬が…!!くう〜っ!!!
放置して禁欲で拘束して躾だなんて、大好物が揃い過ぎて、よもや何処から萌えて良いのか分からず、じたばたしてしまいます!!捲簾と天蓬を象徴するかのようなタイトルもとても好きです!遙か様、ありがとうございます、本当にありがとうございます!!これからも宜しくご指導下さい!!


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